ADIの考え方
1,ADIとはなにか?
 農薬が日常の食卓にあがる食品に残留していてわれわれの口にはいることが考えられます。実際、量が多いか少ないかはともかくとして、いくらかの農薬はわれわれの口に入っていることは確かです。では、いったいどれぐらいの農薬を口にすればわれわれの健康に悪影響がでるのでしょうか?大量の農薬が残留していたとすれば、食べてすぐに中毒症状が起こるでしょう。これを急性中毒といいますが、実際にはそれほど多くの農薬が残留していることはありえません。しかし、ごく少量であっても毎日とり続ければ長い期間にそれらが身体に蓄積して毒性を発現するかもしれません。また、残留しなくても、毎日ちょっとずつ身体にダメージが与えられてやがて問題が出るかもしれません。これを慢性毒性といいます。
 ですから、毎日農薬を一生涯とり続けても慢性毒性が出ないであろう農薬の量を知ることが、われわれの健康を守る上で必要です。この値がADI(Acceptable Daily Intake)です。日本語では一日許容摂取量といいます。
2,ADIの数値の意味は?
 ADIは0.02といったように数値で表されます。単位は通常「mg/kg/day」です。これは1日につき体重1キログラムあたり○○ミリグラムまでならその農薬を一生涯摂取しても大丈夫であろうということです。単に「mg/kg」あるいは「mg/kg bw(body weght)」となっている場合もありますが同じことです。
3,ADIの求め方
 まず動物実験を行います。通常ラット(大きなネズミ)の一生涯(2年間)とマウスと犬(1年間)を使います。毎日エサに農薬を混ぜて食べさせ、どれぐらいの農薬が混じっていれば問題が出るかを調べます。その際には動物を解剖して全身にわたって細かい異変がないかも調べられます。また、繁殖試験といって、3世代にわたって毎日食べさせて各世代に問題が出ないかを調べることも行われます。その結果、問題が出なかった量を知ることができます。これを無毒性量(NOAEL)と言います。この数値に動物と人間の違いを考慮して安全係数として1/100をかけます。その数値がADIです。
4,安全係数とは?
 毒性の基本に「動物の種類に関係なく、体重あたりの物質量で毒性は決まる」といった考え方があります。これはたいがいの場合当てはまります。しかし、必ずしも当たるとは限らないし、ある程度は振れもあります。ですからそのことを考慮して、動物実験で得られた数値を人間に適用する際にはさらに厳しくするべきだと考えられます。それが安全係数です。農薬のADIでは1/100が通常使われます。これは動物種の違いを考慮して1/10。それに個々の体質を考慮して1/10。合わせて1/100と考えてのことです。1/100とは非常に厳しい数値だといえます。
5,ADIをどのように活かすのか?
 食品の安全性を確保するためには普段の食事からからだの中に入ってくる農薬をADI以下にしなければなりません。そのためにはまず、われわれが普段なにを食べているか調べられています。これらには農作物はもちろん、肉類や魚介類や加工食品や水も含まれます。国ごとで違いますので日本では日本のデータを使います。日本国内でも地域ごとに調査されています。これら全ての食品中に含まれる農薬の合計がADIを越えないように各食品中に含まれていてもよい農薬の量を決めます。日本の場合、体重は50キロで計算されますのでADIを50倍した値を超えないようにします。
 一方、農薬を使って作られた各農作物にどれぐらいの量の農薬が残留するかを実験で確かめます。その数値を元にして、各農作物の残留農薬の合計値がADIを越えないように設定したのが農薬の登録保留基準というものです。しかし、国によって食事の内容は異なるので例えば同じ農薬でも日本では小麦に登録保留基準がなくて、アメリカにはあったとすると、アメリカ産の小麦は輸入できなくなってしまいます。それでは輸出入について不都合があるので、国際的に話し合って決めた残留農薬の基準が必要です。これが残留農薬基準です。残留農薬基準は登録保留基準より優先されます。
 農薬の使い方は各商品のラベルに記載されています。この使い方が守られている限りは食品の安全性は保証されると考えればいいでしょう。
6,ADIは誰が決めるのか?
 WHO(世界保健機構)とFAO(国連食糧農業機関)の合同調査機関であるJMPRで議論され決定されています。その結果はCODEX(コーデックス委員会)に送られ検討され認証されます。そして国際的な残留農薬基準を検証しています。年に1回、各国の代表や消費者団体などを交えた総会でCODEXの数値は決められています。変更されることもあります。日本では厚生労働省がその任にあたっています。
 各国にはそれぞれ農薬のADI登録制度があり、日本では日本の内閣府の機関である食品安全委員会(食安委))が日本におけるADIを設定します。普通はCODEXの値と同じになりますが、毒性に対する考え方の差から違う値になる場合もあります。
 元のデータは農薬の開発メーカーがそれぞれの研究機関で実験を行って提出しています。データは改竄やねつ造が行えないようGLP(Good Laboratory Practice ;優良試験所規範)に準拠することを求められています。
7,ADI一覧表
 下の欄にADIの一覧表を掲載しました。これは日本の厚生労働省が設定したものです。(2001年現在)
 なおこの資料はハンドル名「umba」さんからご提供をいただきました。この表を使用する方は「umba」さんに感謝の念を示しましょう。
 「設定できない」とあるのは日本ではADIが設定できない農薬ということです。登録がとれませんから、すなわち日本では使用できないということです。しかし、外国ではその限りではありません。これは発ガン性などに対する考え方の違いによるものです。
ADI一覧表
作成2002年:最新情報は別途お調べください。
農薬名 ADI(mg/kg体重/日)
2,4-D 0.01
2,4,5-T 設定できない
BHC 0.0125
DCIP 0.13
DDT 0.005
EPN 0.0023
EPTC 0.025
MCPA 0.002
アクリナトリン 0.024
アシベンゾラルSメチル 0.05
アジムスルフロン 0.095
アセキノシル 0.027
アセタミプリド 0.066
アセフェート 0.03
アミトラズ 0.0012
アミトロール 設定できない
アラクロール 0.005
アルジカルブ 0.001
アルドリン 0.0001
イソフェンホス 0.0005
イソプロカルブ 0.004
イナベンフィド 0.13
イプロジオン 0.12
イマザモックスアンモニウム塩 3
イマザリル 0.025
イマゾスルフロン 0.089
イミノクタジン 0.0023
イミベンコナゾール 0.0085
インダノファン 0.0035
ウニコナゾールP 0.016
エスプロカルブ 0.005
エチオフェンカルブ 0.1
エチオン 0.0005
エディフェンホス 0.0025
エトキサゾール 0.040
エトキシキン 0.06
エトフェンプロックス 0.03
エトプロホス 0.00025
エトベンザニド 0.044
エトリムホス 0.003
エマメクチン安息香酸塩 0.0025
エンドリン 0.0002
オキサミル 0.02
カズサホス 0.00025
カフェンストロール 0.003
カプタホ?ル 設定できない
カルバリル、NAC 0.02
カルプロパミド 0.014
キザロホップエチル 0.009
農薬名 ADI(mg/kg体重/日)
キナルホス 0.00011
キノメチオネート 0.006
キャプタン 0.125
キンクロラック 0.29
クミルロン 0.01
グリホサート 0.75
グルホシネート 0.01
クレソキシムメチル 0.36
クレトジム 0.01
クロフェンテジン 0.0086
クロリムロンエチル 0.09
クロルスルフロン 0.04
クロルピリホス 0.01
クロルフェナピル 0.026
クロルフェンビンホス 0.0015
クロルフルアズロン 0.025
クロルプロファム 0.10
クロルベンジレート 0.02
クロルメコート 0.05
シアナジン 0.0015
ジアフェンチウロン 0.003
ジエトフェンカルブ 0.14
ジカンバ 0.4
シクロキシジム 0.07
シクロスルファムロン 0.03
ジクロフルアニド 0.3
ジクロメジン 0.02
ジクロルボス、DDVP 0.0033
ジコホール 0.025
シハロトリン 0.0085
シハロホップブチル 0.0024
ジフェノコナゾール 0.0096
ジフェンゾコート 0.2
シフルトリン 0.02
ジフルフェニカン 0.018
ジフルベンズロン 0.012
シプロコナゾール 0.0099
シヘキサチン、
水酸化トリシクロヘキシルスズ
設定できない
シペルメトリン 0.05
ジメチピン 0.02
ジメチルビンホス 0.004
ジメテナミド 0.038
ジメトエート 0.02
ジメトモルフ 0.088
シメトリン 0.011
シモキサニル 0.016
シラフルオフェン 0.11
シロマジン 0.018
シンメチリン 0.042
農薬名 ADI(mg/kg体重/日)
スピノサド 0.024
セトキシジム 0.14
ターバシル 0.013
ダイアジノン 0.002
ダイムロン 0.30
ダミノジッド 設定できない
チオベンカルブ 0.009
チオメトン 0.0011
チフルザミド 0.02
ディルドリン 0.0001
テククロフタラム 0.058
デスメディファム 0.0017
テトラコナゾール 0.004
テニルクロール 0.068
テブコナゾール 0.0029
テブフェノジド 0.009
テブフェンピラド 0.0021
テフルトリン 0.005
テフルベンズロン 0.01
デルタメトリン 0.01
テルブホス 0.00016
テレフタル酸銅 0.05
トラロメトリン 0.0075
トリアジメノール 0.05
トリアゾホス 0.0012
トリクラミド 0.0018
トリクロルホン 0.01
トリシクラゾール 0.03
トリフルミゾール 0.0185
トリフルラリン 0.024
トリベヌロンメチル 0.0079
トルクロホスメチル 0.064
ニテンピラム 0.53
パクロブトラゾール 0.047
バミドチオン 0.008
パラチオン 0.005
パラチオンメチル 0.015
ハロスルフロンメチル 0.010
ハルフェンプロックス 0.003
ビオレスメトリン 0.03
ピクロラム 0.20
ビスピリバックナトリウム塩 0.011
ビテルタノール 0.0015
ビフェノックス 0.071
ビフェントリン 0.0075
ピメトロジン 0.013
ピラクロホス 0.001
ピラゾキシフェン 0.0015
ピラフルフェンエチル 0.17
農薬名 ADI(mg/kg体重/日)
ピリダベン 0.0081
ピリデート 0.16
ピリフェノックス 0.1
ピリブチカルブ 0.0075
ピリプロキシフェン 0.07
ピリミカーブ 0.018
ピリミジフェン 0.0015
ピリミノバックメチル 0.009
ピリミホスメチル 0.025
ピリメタニル 0.17
ピレトリン 0.04
ヒ素(As2O3) 評価していない
フィプロニル 0.0002
フェナリモル 0.01
フェニトロチオン 0.005
フェノブカルブ 0.012
フェンスルホチオン 0.0003
フェンチオン 0.0005
フェントエート 0.0015
フェンバレレート 0.02
フェンピロキシメート 0.0097
フェンプロパトリン 0.026
フェンヘキサミド 0.17
ブタクロール 0.010
ブタミホス 0.005
ブチレート 0.05
フラザスルフロン 0.013
フラメトピル 0.007
フルオルイミド 0.092
フルジオキソニル 0.033
フルシトリネート 0.0125
フルシラゾール 0.002
フルスルファミド 0.001
フルトラニル 0.08
フルバリネート 0.005
フルフェノクスロン 0.037
プレチラクロール 0.015
プロクロラズ 0.0094
プロシミドン 0.035
プロチオホス 0.0015
プロパモカルブ 0.073
プロピコナゾール 0.018
プロヘキサジオンカルシウム塩 0.18
ヘキサコナゾール 0.047
ヘキサフルムロン 0.005
ヘキシチアゾクス 0.028
ペルメトリン 0.048
ペンコナゾール 0.030
ペンシクロン 0.017
農薬名 ADI(mg/kg体重/日)
ベンスルフロンメチル 0.14
ベンダイオカルブ 0.004
ベンタゾン 0.09
ペンディメタリン 0.043
ペントキサゾン 0.069
ベンフレセート 0.026
ホキシム 0.0012
ホサロン 0.006
ホスチアゼート 0.001
ホセチル 0.88
ホルペット 0.10
マラチオン 0.02
マレイン酸ヒドラジド 5.0
ミクロブタニル 0.012
メタベンズチアズロン 0.058
メタミドホス 0.004
メチオカルブ 0.0012
メトスルフロンメチル 0.20
メトプレン 0.1
メトラクロール 0.097
メトリブジン 0.0125
メパニピリム 0.024
メフェナセット 0.0036
メプロニル 0.05
モリネート 0.0021
ルフェヌロン 0.0047
レナシル 0.12
評価していない
酸化フェンブタスズ 0.03
臭素 1.0

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